2009年9月4日金曜日

根本裕史「ツォンカパ研究の方法論的展望」

 欧米や日本におけるツォンカパ研究は20世紀初頭に開始され、1980年代以降に本格化した。方法論的な観点から見て特に注目されるのは、J. Hopkinsを中心とする北米の学者達による研究である。彼らはガンデン、セラ、デプンといったゲルク派の僧院に属するチベット人学僧の協力を得ながら、ツォンカパの著作やゲルク派の関連文献の英訳および内容分析を行なっている。イクチャと呼ばれる僧院教本の活用も彼らの研究に特徴的な点である。これらの手法はツォンカパの思想をゲルク派の文脈の中で捉えようとする際に極めて有効であると言える。


 発表者もツォンカパ研究を進めるに当たり、この方法を実際に取り入れてきた。2004年から2006年まで南インドのムンドゴッドに再建されたデプン・ゴマン学堂に留学し、ゲシェ・ララムパ(上級ゲシェ)の指導の下、認識論、波羅蜜多学、中観学を学んだ他、ツォンカパの『善説真髄』や『密意解明』の研究に従事した。引き続き2007年から現在に至るまで、広島のデプン・ゴマン学堂日本別院(龍蔵院)にて同学堂出身のゲシェ・ララムパ達と共同研究を進めている。


 従来、必ずしも全てのツォンカパ研究者がこの方法を採用してきたわけではない。しかし、現代に至るまでゲルク派で読み継がれているツォンカパの著作を読み解くためには、彼以後に作成された関連文献を参照することや、ゲルク派の学僧の協力を仰ぐことが不可欠である。なぜなら、これらのことを行なわないならば、ゲルク派の学者達の共通見解を無視して誤解に陥る恐れや、彼らの間で争点となっている事柄に気づかないままでいる危険性があるからである。


 では、具体的にどのようにこの研究方法は有効なのか。本発表ではツォンカパの中観作品に見られる縁起思想を題材に取り、後代のジャムヤンシェーパの著作やゴマン学堂のゲシェによる口頭教示を活用した研究方法の有効性と、ツォンカパ研究の新たな可能性を指摘することにしたい。


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